SLKと暮らす。
phase 3 誕生日・午前11時

1999年3月25日。私の33歳の誕生日のことである。AXを車検に出すために国道202号線を西に向かっていた私は、ヤナセ小田部店のショールーム前を通過する際に、白いSLKが展示してあることに気が付いた。 へえ、ショールームに置けるくらいに出回りだしたのかなあ。帰りにちょっと寄って見て行こうっと。

私はAXをマツダに預けると、代車のファミリアセダンを駆ってヤナセに滑り込んだ。おお、本物のSLKが今ここに!むむうっ!それから、私はコーヒーをもらいつつ、お客さまカードに記入しつつ、ちらちらとその自動車を眺めていた。白で右ハンドルかあ・・・

応対してくれたのは、1年半前と同じ上品なお姉さんだった。実は、私は最初のうちはSLKの実車に気を取られていて、彼女だとは気が付かなかったわけだが。
「前にもおいでになりましたよね?確か、シトロエンにお乗りですよね」
「はははいそーです。でもきょきょーは代車のファミリアですう」

聞けば、いわゆるキャンセル車であるとのこと。ひとしきりたわいのない話をすると、彼女は私をまっすぐに見て言った。
「この車でしたら即納です」
ソ・ク・ノ・ウ!こらえしょうのない私には、堪えられない響きではあった。彼女の目からは、確実に、買え買えビームが出ていた。

「ううう〜ん」
私はダッキングでビームをかわしつつ、ちょっとばかし考えるふりをしてみた。今日は見るだけのつもりだったし、そんないきなり言われても買えるわけないじゃんかよー。それに・・・
「左ハンドルが良いし、白じゃあ欲しくはないなあ」
正直な気持ちであった。即納ってだけでほいほいと飛び付くほどのもんじゃないぜ。ふふっ。

「そうですか。では、何色がご希望でしょうか」
「そうだなー黄色かなあー。シルバーも渋いですよねえ。赤もカッコイイしなあ。青も綺麗な色ですよねえ」
私の優柔不断風のたわごとを、彼女はいちいちうなずきながら聞いていた。
「んんーでもやっぱり黄色っす。黄色が良いっす」
「イエローはスポーツカーっぽくて良いですよね」
「うんうん」

この時点で彼女のビームの種類が微妙に変化していたことを、私は知る由もなかった。


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